親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第15回
建仁辛酉、範宴二十九歳三月十四日、吉永に法然上人(源空)をお訪ねしました。 源空上人にお会いした範宴は「私は慈円僧正の弟子、少納言範宴と申します。上人のご高徳をうかがい、 生死の出離の大事をお訪ねするために参上致しました」と言うと法然上人は「慈円僧正の弟子に、 そのような人がいることは聞き及んでいます。ではまず貴方の心の底を、すべて話してみてください。」 と言われました。範宴は百界千如の深意、六大無碍の密蔵について会得しているので、舎那止観の奥義をもって 了解を述べて、上人との問答は何度にも及びました。法然上人は最後に「今までの貴方が言われたことは、 すべて自力聖道門の教義です。いま他力浄土門の道をお聞かせしましょう。範宴が今日、ここを訪ねたということから、 その発心がいかに純粋で真剣であるかが分かります。宿縁が深いということでしょう」と言って、他力易行の道と 安心起行の旨を上人自ら、言葉を尽くして教えられました。

高僧和讃より
(訳)大昔から何度も生まれかわりしてきたが、この迷いの生死を離れ得る強い御縁に遇えなかった。
もしこの度源空先生がおられなかったならば、再び空しく迷いの中で過ぎていたであろう。
―――『親鸞聖人正明伝』より ―――
○<住職のコメント>
京都東山の吉水に、親鸞さまは、師法然房源空を遂に訪ねることになるのですが、
この吉水という場所は親鸞さまが得度を受けられた。青蓮院のなんとすぐ近くなのです。
親鸞さまが3才のときに法然さまは「ただ念仏」の教えを、吉水の辺りで説き始められており、
親鸞さまの得度は九歳ですから、そのとき既にすぐ近くに法然さまはおられたわけです。
ところがこの出会いはそれからの20年経って後なのです。「真の出会い」の不思議を感じます。
出会いとは知っているとか近くに居るからではないんですね。
法然さまは有名な方でしたから、9才のときに親鸞さまも知っておられた可能性もあります。19歳のときなら
何を説かれているかも解っておられたはずです。それからでも10年。自分の中で、種が芽を出し、
根や葉を伸ばしていくように、それまでの知識が本当に自分の問題となって、身が動いたのです。
まさに「機(き)」=人間 が熟したということです。


―――以上『顛倒』09年3月号 No.303より―――
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