親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第24回
第七段 [御伝鈔 より]
上人親鸞のたまはく。
いにしへわが大師聖人
源空の御前に、
聖信房、
勢觀房、念佛房、
以下の人々おほかりしとき、
はかりなき諍論をしはんべることありき。
そのゆへは、聖人の御信心と、
いささかもかはるところあるべからず、
ただ一也と申たりしに、
この人々とがめていはく、
善信房の、聖人の御信心と、
我信心とひとしと申るること謂なし、
いかでかひとしかるべきと。
またある時、善信房が吉水にうかがうと、聖信房湛空、勢観房源智、念仏房などの人々が先に集まっていました。
話のついでに念仏房が、「誰も皆往生の道を究めたいという気持ちは同じだと思います。
けれども凡夫の信心はまことが少なく、虚仮や疑いの心が交じっています。
いつかは法然上人のような信心を獲得して、疑心なく往生を遂げたいものです」と言うと、
聞いていた人たちも「そうだ、そうだ」と頷きあっていました。
その中で善信一人が同意しませんでした。
「いや、私はそうは思いません。法然上人のご信心も、また、私・善信の信心も、少しも違うところはないと思います」と言うと、
聖信房はじめ弟子たちがこれをとがめて「善信房の言われることには理由がない。
どうして法然上人のご信心に及ぶことができようか」と口々に反論しました。
―――親鸞聖人正明伝より―――
○<住職のコメント>
瑞興寺所蔵 親鸞聖人御絵伝
今月も有名な、いわゆる「如来よりたまわりたる信」の場面です。
親鸞さんの末娘であえう覺信尼の子、覺恵の長男、親鸞の曾孫の、覚如さんが書かれた、
親鸞さんの生涯と教えを説く「御伝鈔・ごでんしょう」では、
親鸞さんが問い詰められるところから話が始まっていますが、(上記の本文『第七段』参照)
「正明伝・しょうみょうでん」では、その前の場面から描かれています。
それは、親鸞さんの兄弟子のひとりである念仏房が「いつかは法然上人のような信心を獲得したい」という場面です。
(上記の「親鸞聖人正明伝」参照)
「御伝鈔」のように、さらっと「言い争いをしたことがあった」と言われると、 「阿弥陀如来より賜る信だから、先生の信も私の信も同じだ」と直截に言われる親鸞さんの方が正しいとすぐに思ってしまいますが、 「正明伝」の場面をみるとどうでしょうか。いかにも私たちが言いそうなことではありませんか。 特に「師」と呼べるような先生(人やグループ)に出会った時の私たちの在り方そのものではないかなと思うのです。 先生が素晴らしいが故に、親鸞さんのようにどこまでの客観的に「師」を見ることができず、 先生を絶対化し神格化してしまうのです。 それを指摘されでもすると、指摘したものに対して「お前は自分が偉い、絶対だと思っている」と非難まで浴びせてしまいます。 「ああこういうことを課題とされていたのか、この場面は」と、私は「正明伝」を読んで初めて気付かされました。 いわゆる「贔屓の引き倒し」をしてしまうのですね、私たちは。重ねて心したいものです。
「御伝鈔」のように、さらっと「言い争いをしたことがあった」と言われると、 「阿弥陀如来より賜る信だから、先生の信も私の信も同じだ」と直截に言われる親鸞さんの方が正しいとすぐに思ってしまいますが、 「正明伝」の場面をみるとどうでしょうか。いかにも私たちが言いそうなことではありませんか。 特に「師」と呼べるような先生(人やグループ)に出会った時の私たちの在り方そのものではないかなと思うのです。 先生が素晴らしいが故に、親鸞さんのようにどこまでの客観的に「師」を見ることができず、 先生を絶対化し神格化してしまうのです。 それを指摘されでもすると、指摘したものに対して「お前は自分が偉い、絶対だと思っている」と非難まで浴びせてしまいます。 「ああこういうことを課題とされていたのか、この場面は」と、私は「正明伝」を読んで初めて気付かされました。 いわゆる「贔屓の引き倒し」をしてしまうのですね、私たちは。重ねて心したいものです。
―――以上『顛倒』09年12月号 No.312より―――
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