親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第18回
まず第一は親鸞が自筆で写した『西方指南抄』に「十一箇条問答」として収められている次の問答である。
持戒の行者の念仏の数少ないのと、破戒の行人の念仏の数の多いのとでは、往生ののちの浅深はどうかとの問いに対して源空は、
坐っている畳を持って「この畳があるから破れているかいないかの論が生ずる。しかしその畳が畳としての価値がなくなった場合は、
なんとも議論の仕様がないではないか。伝教大師の『末法燈明記』には末法に持戒・破戒・無戒もなく、あるのは名字の
比丘(びく)ばかりであると説かれている。なんのために破戒・無戒など議論するのか。
弥陀の本願は凡夫のためにおこされたものであるから急ぎ名号をとなえよ。」と言った。
この問答は持戒堅固の堂僧の生活を続けるべきか、それとも沙弥(しゃみ)の生活にはいるべきかの岐路に立って長い間苦悩し、
聖徳太子の告命を得て捨戒の決意した親鸞に対して、源空が吉水で説いた法語としてもよい内容を持っている。
また『和語燈録』巻五の「諸人伝説の詞」のうちに収められている「現世をすごすには念仏を唱えられるようにせよ。
念仏の妨げになるとなるものは、すべていとい捨てるべきである。やめるべきである。聖(ひじり)であって念仏ができないならば
妻帯して念仏せよ。妻帯したために念仏ができないというならば、聖になって申せ。」という法語なども、それに近い。
親鸞が源空との最初の出会いで前途に光明を見いだしたことは確かである。しかしその心に厚く覆いかぶさっていた迷いの雲は、
一度や二度の説法聴聞で全部晴れあがるほど簡単なものではなかった。弥陀の本願のは凡夫のために
起こされたものと信じてその名号を唱えよ、と説くことは理解できても、
過去に経論を読み、雲鸞(どんらん)・善導の注疏(ちゅうそ)を知っていたことが妨げとなって、
武士や庶民出の弟子のようにすなおにすぐ源空の説法を受け入れられなかったようである。
―――人物業書「親鸞」 赤松俊秀:著 より 引用 ―――
○<住職のコメント>

瑞興寺所蔵 親鸞聖人御絵伝
―――以上『顛倒』09年6月号 No.306より―――
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