親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第60回
親鸞は父母(ぶも)の孝養(きょうよう)のためとて、
一返(いっぺん)にても念仏もうしたること、いまだそうらわず。
そのゆえは、一切の有情は、みなもって世々(せせ)生々(しょうじょう)の父母(ぶも)兄弟なり。
いずれもいずれも、この順次生(じゅんししょう)に仏(ぶつ)になりて、たすけそうろうべきなり。
わがちからにてはげむ善にてもそうらわばこそ、念仏を回向(えこう)して、父母をもたすけそうらわめ。
ただ自力(じりき)をすてて、いそぎ浄土のさとりをひらきなば、六道四生(ろくどうししょう)のあいだ、
いずれの業苦(ごうく)にしずめりとも、神通力をもって、まず有縁(うえん)を度(ど)すべきなりと云々。一なり。
−−−【歎異抄 第五章】より−−−
私(親鸞)は、亡き父母の追善供養のために念仏したことは、いまだかつて一度もない。
その理由は、いま現に生きとし生けるものは、あらゆるいのちとつながりあって生きる父母兄弟のような存在だからである。
誰もが、生まれ変わって、目覚めた者になって、全てを助けるべきなのです。
自分の力で励む善ならば、その念仏を振り向けて父母を助けもしましょうが、そんな力は、私には有りません。
ただ、わが身、心、力をたのむ在り方を捨てて、即ち浄土の、永遠無限という果てし無く広大な悟りを開いたならば、
人間の迷いの生において、どのような行い、苦悩に沈んでいる者であろうとも、
自由自在に生きとし生けるものを救済する、真実の法のはたらきをもって、
まず、身近な縁あるものを救うべきなのです。
−−−【歎異抄 現代語訳】−−−
嘉禎(一二三五、六十三歳)乙未年の秋、京都にお帰りになりました。 昔のことを思い出すと、歳月が一瞬のうちに過ぎたことが、あたかも夢のごとくに思われ、 白い駒が眼前をよぎったように幻のようでした。 京都時代の親しいと友の消息を訊ねると、すでに亡くなっており、 昔の師匠や兄弟子の消息を訪ねても、露と消えられておられました。 懐かしく往時を偲ばれました。 帰路してすぐに、毎月二十五日に法然上人の命日を勤められようと人々に声をかけて、 声明の師匠をお招きして念仏勤行を執り行い、師の恩に深く感謝を捧げました。 聖人のご消息の中に「二十五日の御念仏」とあるのはこのことです。
−−−【親鸞聖人正明伝】より−−−
○<住職のコメント>
この親鸞の言葉から「浄土真宗のお勤めは先祖供養ではない」と言う方がおられる。 それでは何かと問うと「佛徳讃嘆」だと。
私は、どちらの言葉も舌足らずだなと思う。
なぜなら「先祖」「供養」「佛」「讃嘆」どの言葉も意味がはっきりしないまま使われているように思えるからだ。 『正明伝』を見てみよう。「親鸞さんが、師の法然の御命日に念仏勤行を勤めた」とある。これは何か。 師の命日に念仏を勤め、師を偲び師の教えに、出会い直しておられたのであろう。 これは「先祖供養ではない」のか?私はむしろ、我々は「本当の先祖供養をしよう」と言うべきであると思う。 自分の「思い」で掴まえた、自分に都合のよい守り神としてのご先祖ではなく、 時には厳しく見つめ、時には優しく見守り、我々の生きざまを問い直して下さるような、人生の先輩、先生。 教えとなった、諸仏のお一人としての、その方に出逢う場としての、念仏勤行である。 その時、「ご先祖」は当然、父母、祖父母といった「枠組」、「〇〇家」といった狭い枠を超えて、 あらゆる生きとし生けるものとつながる、いつでもどこでも誰でもの、 アミダなるいのち、阿弥陀佛にまで突き抜けるものとなるはずだ。。
―――以上『顛倒』2013年6月号 No.354より―――
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