親鸞聖人の生涯
〜『顛倒』連載版〜第48回
現世利益和讃
『涅槃経』ねはんぎょう(如来性品)にのたまわく言わく、 仏に帰依(きえ)せば、終(つい)またその余の諸天神(てんじん)に帰依せざれ、と。
−−−【教行信証化身土末巻・親鸞】−−−
鹿島新刊の尾張守中臣信親はその不思議ないきさつを聞いて、聖人に深く帰依しました。
あまりに心を打たれたのか、次男の磯崎次郎信広を聖人の弟子とされました。(鹿島の)順信房がその人です。
聖人が京戸へ戻られた後、関東の弟子の間でしばらく新人が乱れることがあったとき、
承認の新人にも間違いがあったとして、悪く云う人も大勢いました。
順信房は嘆き悲しんで、鹿島明神に七日参籠えおして「聖人がもし凡人であるのならば、
いささかの誤りや間違いもあるでしょう。
けれども仏が姿を変えて現れた方(権化)であるならば、決してまちがいはないはず。
ぜひともそのことをお示し下さい」と明神に一心に祈願しました。
参籠の最後の夜、明神の示現があって「善信は正しい権化の聖人である。
当の道 糸卓 禅師の後進であるのだから、いささかの間違いもありません」と告げて一つの歌を示されました。
青柳の千すじの糸は乱るとも 一木の松の色はかわらじ
これより順信房は疑心のない聖人の直弟となりました。 後に聖人のご一生を記した書物の中に、このことを載せたと聞いています。
−−−【親鸞聖人正明伝】−−−
また諸神(しょじん)・諸仏・菩薩(ぼさつ)をもおろそかにすべからず。
これみな南無阿弥陀仏の六字のうちにこもれるがゆえなり。
ことにほかには王法(おうぼう)をもっておもてとし、
内心には他力(たりき)の信心をふかくたくわえて、
−−−【御文 第二帖−六・蓮如】−−−
○<住職のコメント>
浄土真宗の大問題、神祇との関わりが、『正明伝』に出てきました。
冒頭の『教行信証』の言葉でもって『正明伝』のインチキ性を言う方
もおられるでしょうが、私はそうは思いません。後の『現世利益和讃』
を見て下さい。親鸞は「神祇と付き合わない」と言っているのではな
く、付き合いの「質」を問題にしているのです。最後の蓮如の『御文』
もそうです。要は、自分の中心は何かということです。蓮如は「内心
には他力の信心をふかくたくわえて」と言います。
『正明伝』は鹿島神宮と親鸞の深い間柄を述べますが、事実として、関東時代、親鸞は鹿島神宮によく通っていました。 ただそれは、いわゆる「お参り」ではなく、そこには、都に準ずるほどの多くの書物があり、 親鸞は、それを読むためにいわば「図書館」として、鹿島神宮を利用されていたようです。 親鸞の主著であり、とても難しい、学術書でもある『教行信証』は、今の茨城県の稲田草庵で製作が始められますが、 著作を支えた文献は、鹿島神宮にあったわけです。そのような密接な間柄の中で、 神社の次男が親鸞に帰依することも、ありうることでしょう。 私事ですが、わが瑞興寺は150年ほど前に、天満宮から嫁が来ています。どうなんでしょうか。 冒頭の言葉を杓子定規に受け取って、原理主義的に神祇と敵対するようなことではなく、 親鸞自身も、その後の宗門の歴史も、緩やかに神祇との健康な間柄を保ってこられたのではないでしょうか。
『正明伝』は鹿島神宮と親鸞の深い間柄を述べますが、事実として、関東時代、親鸞は鹿島神宮によく通っていました。 ただそれは、いわゆる「お参り」ではなく、そこには、都に準ずるほどの多くの書物があり、 親鸞は、それを読むためにいわば「図書館」として、鹿島神宮を利用されていたようです。 親鸞の主著であり、とても難しい、学術書でもある『教行信証』は、今の茨城県の稲田草庵で製作が始められますが、 著作を支えた文献は、鹿島神宮にあったわけです。そのような密接な間柄の中で、 神社の次男が親鸞に帰依することも、ありうることでしょう。 私事ですが、わが瑞興寺は150年ほど前に、天満宮から嫁が来ています。どうなんでしょうか。 冒頭の言葉を杓子定規に受け取って、原理主義的に神祇と敵対するようなことではなく、 親鸞自身も、その後の宗門の歴史も、緩やかに神祇との健康な間柄を保ってこられたのではないでしょうか。
―――以上『顛倒』2012年5月号 No.341より―――
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